ちょっといいですか?
図書館通信編 第2回「体内時限爆弾」

ジンマシンが治らない。
テスト前から出るようになってもう1ヶ月にもなるのだが、
未だに治らない。
涼しいところにいるとそうでもないのだが、
あったかい場所にいると、もうだめ。
体中でぷつぷつぷつぷつぷつぷつぷつぷつ……。
かゆみで昇天しそうである。


ことの起こりはこうである。
最初、朝起きると体中が痒かった。
前の晩に食べた筋子かなんかにあたったんだろうと軽く考えていた。
掻いてみたら面白いようにぷつぷつがでてきたもんだから、
「これは保健室に行って早退できるかも。」
なんて淡い期待を抱きながら登校。


痒い痒い(「かいかい」:ちょっとした蕁麻疹のこと)ぐらいなら、
胃腸が弱い関係で割とぷつぷつ出る。でも、一時的なものですぐに治る。
1時間も2時間もぷつぷつが残るのは久しぶりで、
幼稚園児代に生卵に当たって以来の出来事であった。
(私はそれ以来、生卵を食べられない)
面白がって掻いていたら、
ぷつぷつ同士が繋がって、どんどん大きくなるではないか。
もちろん、それに従って痒みも増すけれど、
好奇心でそんなのはどっかに吹っ飛んでしまった。


ホームルームだけで早退するのは気が引けたので、
一時間目の英語だけは受けて帰ろうと自分の中で勝手に決めた。
授業は相変わらず寝てしまい、授業も終わる直前に、
当初の計画(保健室行き)を実行しようと腕を見ると、、、
『ない!!』
ジンマシンが消えてなくなっちゃってる!!
ええ? なんで! なんでなくなっちゃったの??
友達にも痒さをアピールし、
準備は万端に整っていたのに、、、、、
いざ合法的(?)に帰ろっかな? と思ったときに、
大本が消えてしまってはお話にならない。
結局その日は二度とぷつぷつが出ることもなく、
受けなくても良かったはずの授業(心情的にそうでしょう)を、
みっちり6時限まで受けさせられる羽目になったのでした。
期待していただけに失望も大きく、
授業が輪を掛けてツマラナイこと、、、、
ホームルームで帰っときゃ良かったと、1日に何度思ったことか。


しかし、ぷつぷつはその日だけでは終わらなかった。
しばらくの潜伏期間をおいて、
ぷつぷつが頻繁に出るようになってきたのである。
食後にぷつぷつ、
授業中にぷつぷつ(特に苦手な英語と数学と体育)、
風呂上がりには全身まっ赤っか。
1時間ぐらいで引っ込んでしまうので放ったらかしていたら、
段々と症状が悪化する始末。
ジーパン履いてもぷつぷつ、
嫌いな友達と口論になるとぷつぷつ、
挙げ句の果てには出来の悪いテストが帰ってきた時
点数を見た瞬間にぷつぷつでてくる始末。


さすがにヤバイと思ったので医者に行ってみると、
あっさりと
『治んないですよ』
などと診断され、またまたぷつぷつ出てきてしまう。
「そんなぁ、たかが蕁麻疹でしょう?」
納得できなくて、ちょっと反抗。
しかし、どうやら本当に治りにくい類の蕁麻疹らしい。
原因として考えられるのは、骨格のズレ。
医者が言うには、
背骨から頸椎まで、
その骨が通常より5mmぐらいずつずれているらしい。
ズレが激しいので脊髄が圧迫されて、
内臓関係の神経を痛めたために、
内臓に破綻をきたしたとの診断だった。
テスト前に無理をしたために体のバランスが崩れて、
今までの無理が全て内臓に集中したとも聞いた。
そんなわけで、
私は今、ちょっとした刺激で蕁麻疹を誘発するほど、
抵抗力が弱っているらしい。


治療法は骨を治すことだそうだが、そう簡単に治るものではない。
(あと2年すると骨が固まるので、
 それまでに治さないと一生内臓関係で苦労するとまで宣告された。)
当分はジンマシンと共存しなければならなくなってしまった。
困ったもんである。
抗生物質の投与でなんとか抑えられているが、
薬が切れるとぷつぷつぷつぷつ……。
これではまるでジャンキーじゃないか。
なんだか、書いてるうちに深刻になって来ちゃったな……。
(私に恨みのある方、とどめを刺すなら今がチャンスです。
 まぁ、仕損じたら倍付けで返礼を致しますので御注意を。)


薬が切れたので医者に病状の変化が無いことを報告すると、
こんどはまたもおったまげたことを宣った。
『それがねぇ、どの内臓が悪いんだか解らないんだよね。』
おいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおい!
色々と検査をするものの、決定的な確証を得るには至らず、
仕舞には『背骨にウイルスがくっついてるんじゃないか?』
なんて怖いことを言い出す始末。
なんだか妙な話になってきたぞ、、、
そのうち、
『これはまだ、治療法が確立されていないんだけどね、、、』
なんていいながら妙な粉末をあれこれ握らせて
【気功パワーチェック】なる検査に突入。
ヤバイ、この医者完全にイッちゃってる!!
どうやらこのままでは【実験体】にされそうな勢いだったので、
とっとと切り上げてその病院(町医者)から退散。
この原稿の後にでも、
大学病院で精密検査を受けてみることにした。
なんだか嫌な気分である。


今回の病気
【亀首症候群(と、医者が言っていた)】をはじめとして、
考えてみれば、私は色々な持病を持っている。
【椎間板ヘルニア】も父親の遺伝で受け継いでしまっている。
腰椎の何個かの骨がズレて神経を圧迫する病気で、
いわゆる腰痛持ちのひどいやつ。
重くなると半身不随にもなる厄介な病気だ。
中3の時、友達と柔道をやっていて、
背負い投げを喰らって初めてわかった。
(両親は生まれたときから知っていたらしい)
手術すれば治るそうだが、
背中には神経がたくさんあって切れないので、
腹を割いて内臓を全部取ってからでないとできない。
鰺の開きならぬ人間の開きである(note注記1)。
手術跡が無惨だし、そんなに入院している暇もないので、
これも放っておいている。
(ふとした拍子に治ることもあるそうだが、
 歳を取ってから腰痛に悩まされるのは
 もう宿命だと宣告されている。)


それから、【自律神経失調症】。
一種の神経症だが、心配事があると発病する。
特にテスト中にかかりやすく、カラダのあちこちに変調をきたす。
睡眠に関する神経の切り替え(交感神経と副交感神経)が冒され、
不眠症などを併発する。
これも、根本的な治療法がない(note注記2)。
それから、【不整脈】なんてのもある。
これは献血であきらかになったもので、別室で心電図を取られた。
普段から異常な緊張状態(自律神経失調)になることがあって、
そんなときにはゆっくり休んでリラックスしなさいと言われた。
あとは、常にパソコンに接しているための【眼精疲労】【腱鞘炎】、
それから
【扁桃腺とアデノイドを摘出しちゃってるから風邪に掛かりやすい】
とか、笑っちゃうのは【若禿げ】(これは病気なのか?)
なんてのまである。


面白いぐらい、体のあちこちに爆弾背負ってますけど、
基本的に医者が嫌いなのであんまり通わないでいる。
やりたいことだっていっぱいあるしね。


別に不幸だとは思ってませんけど、
なんだかとても18歳の体とは思えない。
回避する方法がない訳じゃあないんです。
(そうでなかったら今頃とっくに入院しています)
とにかく、神経を使ったり悪い姿勢で居たりせず、
パソコンをやめて規則正しい生活をしていればいいんです。
そうすれば、潜伏したまま発病しないで済むらしい。
『これなら、なにもかも上手くいくんですよ。』
とは言われても、
テストや仕事がある以上、そんなことは無理な話である。
今日だって徹夜でこの原稿書いてるし……。
(徹夜原稿は目と髪と腰と肩などに良くない。)
そして、無理な以上に、そんな生活つまらない。
やっぱり、やりたいことだってたくさんあるんだし。


試験休みが暇だったから、
ストレスの本を買ってきて読んでみた。
小難しくて10頁で嫌になった。
ジンマシンも出てきたところを見ると、
読んでいる方がストレスが溜まるだろうと判断。
速効で放り投げた。


まぁ、気楽に気長に治すしかなさそうである。
まずはこの“繊細な神経”を図太くすることから始めようか。
締め切りなんてぺぺぺのぺーだ!
(なんか後頭部に殺気を感じる)
……やっぱり今の私には、
背中の爆弾よりも、原稿が上がらない方が恐ろしい。
でも、現在時刻は午前三時。ああ、抜け毛が……。
でも、編集長も怖いし……。


********************************
<note>
初出:1995.1.14
某大学附属某高校図書室・図書館通信1994年度9号
ちょっといいですか?(第14回A)
「気が付いたら体中に中年性障害が……。」
−とりあえず、まだ18歳なんですけど−
修正・改題:2001/10/18
   HP遊覧航路
関連文:1996/03/12
(↓読めます)
   学校図書館問題研究会・東京支部ニュース1996年3月号
   
「ちょっといいですか?(第5回@)/神話の崩壊」
関連文:1998.03.05(↓読めます)
    niftyserveパティオBNW(books network)
   
 「井戸端ダァク談義11話/私の入院日記」
********************************
・自分の身体的弱点をさらけ出して、
 手っ取り早く笑いをとろうという
 安直な思想から生まれた自虐ネタ文。
・今考えてみると、結構病気に無知でしたね。(下記注記参照)
 それに、ここに書かれている病気のほとんどが、
 その後5年で急速に悪化の一途をたどることになる。
 そして幾つかの爆弾は既に爆発し、
 ヘルニアは手術を、
 自律神経は立派に鬱病へと発展。(T_T)
 髪の毛もものの見事に後退して歯止めが掛からなくなってますし、
 不整脈というか、既に対人恐怖症の域に達してます。
 そういうことを鑑みると、
 ある意味、予言的な内容になってますね。
 入院したときなんか、
 「とうとう爆発しましたね、爆弾。」
 なんて見舞に来た後輩に言われたりもしましたし。
・ホントは掲載したくなかったんですけど、
 今に続く文章という意味では、
 原点とも言える部分もあるので、掲載しました。
 時々で良いですから、
 お年寄りとして丁重にいたわって頂ければ幸いです。(爆)
<注記>
1:椎間板ヘルニアの手術について
この腹開き手術っていうのは、医者の脅しが半分あったようです。
ちゃんと治療していれば手術に至るケースは稀ですし、
今は技術も進歩しており、背中からちょっと切っただけで治ります。
私はかなり重いところまで行ってしまったので、
結局は背中を12センチも切る羽目になったんですが、、、。
2:自律神経失調症
 起きている時に働く「交感神経」と、
 寝ているときに働く「副交感神経」の切り替えが上手く行かない病気。
 寝るはずの時に交感神経が働いて寝られない、というのが主な症状。
 ただ、鬱病なんかの場合、
 医者が気遣って便宜的にこの病気の名前を使うことがあるので、
 世間一般では「カラダの病気」というよりは
 「ココロの病気」と思われている。
 この文章を書いているときには、
 既に軽い鬱病の気があったように思う。
 注記はそんなもんです。