流星予報(ドロップ・ノート) (双子座流星群 1996) ・1996年12月13日(曇/雨) 先週の流星予報によれば、 今日の双子座流星群の観測条件は最高のはずだった。 月齢(ムーンフェイス)は新月に近く、 錐のように鋭い月が夜空に硝子のような円弧(シルエット)を描き、 極大時間(トップカーヴ)には 天頂(ゼニス)から降り注ぐような流星群が舞飛ぶ。 そんな青写真(フィルム)が天文雑誌の表紙に踊っていたのに……。 今朝は気を重くさせるような曇天、 低く垂れ込めた雲堤が青空を塗り潰し、 上層と低層で行き違う疾風雲が嵐の到来をいち早く示している。 駄目だ、今日は雨だ。 緩慢な手つきで旅行道具を担ぎ、 出発前に最後の悪あがきに 177の気象情報(ウェザーニューズ)をダイヤルする。 相変わらず、あきらめは悪い。 「夜半前から所によって晴れ。」 相変わらず機械的な予報官の声に辟易しながらも、 諦めきれずにカメラにフイルムを装填する。 今日は金曜日、講義は17:30まで。 某大前駅のロッカーに荷物を込めて、校舎に向かう。 パラパラと降り出す雨。 講義中も上の空で、 雑記帳に翌日の予定が落書きのようにとりとめもなく走り書きされる。 講義が終わっても、雲はまだ厚く緞帳を降ろしたまま。 もちろん星は見えない。 半ばやけっぱちで強行を決意。 某大前で彼女と待ち合わせ、調布へレンタカーを調達しに行く。 車種は予算の都合上、カローラU。 コロコロした車体は愛らしいが、 果たして荷物込みの4人が乗れるのかが不安。 とにかく若水氏と寝太郎氏を拾いにお茶の水へ。 相変わらず雲は低い。 お茶の水到着21:30。少々時間が押している。 予報では0:00頃がピークのはずだ。 奥多摩までの道のりを考え、荷物を押し込んでいると。 「頭が痛ぁい。今朝、飲み過ぎたぁー。」と、寝太郎氏。 熱が出そうなどとのたまっている。 ええい! 強引に寝太郎氏を後部座席に押し込むと、 問答無用で靖国通りを西走する。 途中、何度か発熱を訴えるも、 私や弱視氏の選曲による 【昆虫軍】【ミッションインポッシブル】 などに反応しているので大丈夫と判断(逆にヤバイという判断もあるが)。 甲州街道沿いの寝太郎家を経由せず、 新青梅街道を一路奥多摩へ。 奥多摩駅到着0:30。なぜか天候が回復している。 それに反比例するかのように、 寝太郎氏の容態は悪化の一途を辿っていた。 試しに、私の大好きな『ゲテ汁』を飲ませてみると、 「おいしいですぅー。」という。 やばい、重態だ。 それにもかまわず奥多摩湖畔へ。 小河内神社のバス停付近に車を停め、 前々から渡ってみたかったドラム缶橋を渡る。 夜の湖面は漆黒の鏡面のように静かで、 オレンジ色のドラム缶が不気味に湖面から顔を覗かせている。 でも、プカプカしていていい感じ。 残念ながら闇夜で景色は見えなかったが、 それでも湖畔では風が走っていて気持ちよかった。 湖畔のベンチで夜食。 寝太郎氏はグロッキーになりながらも、食べるモノはよく食べる。 その後しばらくは雲が濃くなり、 見えていたオリオン座も消えてしまったので、 雲の切れ間を探してあちこち動き回る。 ドライブインの駐車場で若水氏が運転してみたり (免許取って2日しか経っていなかったが)、 いろいろと場所を移してみるが、 結局ダメで元の湖畔に戻ることにした。 (その間、寝太郎氏は車内でグロッキー) しばらく車内で仮眠を取っていたが、 01時30分頃に急に空が開け、星々が見えだした。 オリオン・双子(ジェミニ)・ペガサス アンドロメダなどのメジャーな星座を始め、 髪の毛(ベレニケ)・子馬(エキュレス)・一角獣(ユニコーン) 兎(レプス)・カラス(コルベ)・コップ(カクテル) ポンプ(アンティリア)・海蛇(ヒュドラ)などの 普段はお目にかかれないような星座がハッキリと輝いている。 逆に、普通の星座の位置がわからなくなるぐらいだ。 小河内神社の参道のアスファルトに横になると、 スッ、ススッっと、流星が流れるようになる。 はじめは「見えたー」「見えなかったー」などと話をしていたが、 だんだんと、声が興奮に変わる。 寝太郎氏:「おおっー3連続だぜ!」 元彼女:「今、緑色に爆発しなかった?」 若水氏:「オリオンのあたり、すごく多くない?」 筆者 :「今のやつ、空全部横切ったじゃん!」 なんと、話をしている間にもバンバン流れる。 過去数年間あわせて、こんなに流れ星を見た記憶はない。 とにかく、「へー」とか「ほー」とか、 しばらくは言葉にならない感動を覚えていたのも確かである。 それは本当に大袈裟ではない、後の参加者全員の感想である。 グロッキーだった寝太郎氏、 「15分だけ見るぅー」の予定が、 目が離せなくなって1時間半ぐらい見ていた。 私も、撮影するつもりで機材を積んでいたのだが、 あまりの量の多さに見とれてしまい、 取りに戻ることも忘れて、後半はある実験に終始してました。 何の実験かって? 例年通りですよ、皆さん。 いわゆる“願掛け”ですね。 流れ星が消える前に願い事を3回言うと、 その願い事が叶うってやつです。 毎年、夏のペルセ群では実験するんですが、 なにしろいつ流星が流れるか予測もつきませんし、 不意をつかれる場合が多くて言い切る前に終わるのが常です。 しかし今回の実験(実験者:前述4名)では、 とにかく流星の滞空時間が長いので、 あっけなく言い切ってしまいました。しかも余裕で。 確か金がらみのことを叫んでいたんですが、 見事に実験者4人共願いが叶っています。 翌日4:00。 眠気の残る中、早朝の明けゆく空を眺めつつ一路調布へ。 完全に風邪が悪化した寝太郎氏を送り届け・レンタカーを返却した後、 いざ新宿へ。 なんとこの日は連続企画、 徹夜の運転で揺れる脳髄を引きずって、 今から箱根に温泉旅行に出かけようというのである。(地獄) 問:この後の箱根企画はどのような顛末を迎えたでしょう。 ヒント:箱根登山道での車中会話から抜粋。 「警察だ、伏せろ!」(運転者・K氏) 「定員オーバーなんだから伏せるところなんかないよー。」(筆者) 「後部座席の膝の上に人が乗ること自体に無理が……。」(若水氏) 「じゃあ恩田、降りろ!」(すいか頭氏・私が書くの氏・その他大勢) ……私が悪うございました。
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