▼井戸端ダァク談議▼
 第18回「愛の献血」

 オイラは言わずと知れた献血マニアである。200mlや400mlだけではなく、時間のかかる成分献血の提供者として日本赤十字社に登録されており、血液の不足する夏や冬には呼び出しの葉書が来る。回数は41回(1998.8.8現在)を数え、赤十字より「銀色功労章(10回)」「金色特別社員章(20回)」「銀色有功楯(30回)」と、表彰を受けている。
 オイラのようにドス黒い人間が、なぜ故に献血なんていう奉仕活動に従事しているのかという疑問が湧かれるだろう。もちろん、オイラの頭の中には奉仕活動などと言う殊勝な単語は無いに等しい。あるのは単純なる名誉欲と物欲である。
 献血というのは無償奉仕が原則で、いかなる金銭の授受も認められない純然たる奉仕活動だと思っている人がまだいるようだが、実際はかなり違う。なにしろ、タダで血を抜かれて不健康になりに行く人間が何処の世界にいるのだろうか? 上のように世の中の良い面ばかりしか見ていないような人間は、是非ともヤクザ組織の運営する闇献血(いわゆる売血)にでも連れていってやりたいものである。
 ともかく、日本赤十字では提供者を増やすために、それなりの薄謝を還元することで血液循環を賄っている。なにせ、タダで採決した血を売ってるんだから(まぁ、人件費や輸送費などの莫大な費用がかかることは承知しているが)、提供者にもそれなりの見返りがあって当たり前ではある。なにしろ、文字通り心血を削ってるんだからね。
 しかし、その謝礼に現金は使用できないので、図書券や物品をかわりに還元している。その金額も自治体に世って様々で、埼玉県は図書券500円だが、東京都はボールペンである。オイラの献血のきっかけは図書券欲しさだったので(5年前、東京都は図書券200円だった)、最近はちょっと足が遠のきつつある。それでも、例えばリレー献血(3人が1グループとして献血する)などでは、抽選でTDLのパスポートが当たったりするし、テレホンカードやマグカップなどもしょっちゅう還元品として配っているので、そういう意味で楽しめることがないわけでもない。
 しかし、それだけでは面倒がって行く気が起きないのも事実。例えば、移動献血車が近くの駅や大学へ来ていたとしても、何となく面倒で寄る気がしない人も多いだろう。特に夏場などは、あのような熱っ苦しい車内で献血する気など、起こるわけがない。(よっぽど質の良い景品で釣らない限りはね)
 やはり、献血と言えば献血ルームである。クーラーが利いていて、お菓子やジュースが飲み放題で、マンガが読み放題とくれば、けだるい午后の街歩きの休憩に、一服寄っていくかという気にもなるというものである。まぁ、程度の差こそあれ、献血車よりは贅沢に時間が使えるし、血を抜いたものと差し引いても消費カロリーは少なくて済む。(大抵の献血ルームでは、還元品のお持ち帰りセットが置いてある)それに、成分献血などで時間がかかる場合(成分は最低で50分)、時間つぶしのためのビデオやテレビが1人1台見放題である。オイラは献血ルームで様々な映画を見せていただいた。まさに、献血ルーム様々である。
 それでも、最近は献血と縁遠い生活を送っている。というのも、献血はそもそも“健康な血液”が欲しいわけで、“病気持ち”などの血液は危なっかしくて使っていられないので、検査項目が異常に細かい。6ヶ月以内に海外渡航した人は駄目・風邪薬飲んでる人は駄目・3ヶ月以内にSEXした人は駄目……などなど、普通、“通常の健全な若者”は、この基準に達せられないのだ。そりゃあね、SEXして1週間は免疫検査にも反応しないエイズを持ってる人間が献血したら、献血でうつる可能性があるわけだからね。(一応、赤十字の方でチェックはしているけれども、あまりにも早期の場合は発見できない)
 ということで、“全く身に覚えもない”ということが無いなら別だが、何となく足が遠のいてしまう場合もないわけではないのである。
 とはいえ、献血後に郵送されてくる検査項目表は、健康の指標になるので重宝する。健康診断で言う血液監査を無量で送ってくれるため、肝機能や腎機能などの簡易チェックが出来て、とても有り難いのである。

 とまあ、ここまでは献血の良い面ばかりを書き連ねてきたが、オイラが献血を躊躇っている理由はこのほかにある。
 ニュートンや日経サイエンスなどを愛読雑誌としてしているオイラなのだが、最近のニュースには血液関連のダァクなニュースが多すぎるのである。例えば、『転載は遺伝するのか?』『染色体による性格決定論』『レズ・ゲイの染色体』などなど、血液から遺伝情報が簡単に取り出せる昨今、血液を分析することで個人情報の流出が問題になりつつあるのだ。例えば、染色体に粗暴癖などの遺伝情報が組み込まれていた場合、警察の容疑者リストに組み込まれる場合もあり得る。まぁ、大袈裟だと思われるかも知れないが、アメリカなどではゲイやレズなどの遺伝情報を暴露されて結婚出来なかった例もあるというから、あながち嘘とも言えないことではある。
 それに、遺伝する身体的欠陥というのも多々ある、オイラの椎間板ヘルニアだって、親父の遺伝である。そういった情報を分析されているとしたら、“ちょっと怖いよなぁ”と思ってしまうのである。顧客名簿などが簡単に流出する現在、血液情報だからと言って信用できるとも限らない。ひょっとしたら、オイラの遺伝子には【多重人格】があったりするかも知れないしね。(笑)
 それに、輸血の際には多少なりとも他人の血となるわけで、オイラの遺伝子がウイルス並に強くて、患者の性格が激変しちゃったりしたら、イヤだよね。それまでは明るくてお茶の間の人気者的存在だった人が、急にダァクな文章をこねくり回すようになっちゃったりして……。考えるだけでも、その人の人生が可愛そうだね。(笑)
 でも、患者は貰いたい血や貰いたくない血を選べないわけだし(血液が合ってるかどうかだからね)、そのへんも考えてあげないと、と思うのである。だから、最近は血液製剤として加工される成分献血を選ぶようにしている(全血だと、そのまま患者に渡るから)。まぁ、オイラの血液しか合わない人が居るならば、オイラの血液でも役に立つと言えないこともないけれどね。
 献血ルームに顔を出すと、白衣のおねーさんが『今日も、成分でお願いできますか?』などと訊いてくる。その笑顔にダマされつつ、両肩献血(普通は片腕だが、両腕に差して2倍近くの血液を採る装置)に送られるオイラだったりする。

 血って怖いよね。
 
                    恩田@愛がないぞ、愛が

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<note>
初出:1998/08/08 niftyパティオ来来軒
   「井戸端ダァク談義(第18回)/愛の献血」
再掲:2001/03/15 遊覧航路(誤字修正)
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・井戸端ダァクシリーズは、
 通常では「重い」ことを、邪推と皮肉で塗り固めたゴシップ文。
 あんまり好きな文章ではないため、
 再掲できる文章が異常に少ないのが特徴。
 これは比較的、まぁ大丈夫だろうと言うことで、
 ついでに掲載したものです。
 本編に通じる考え方はここから生まれていたわけだし。
 斜め読みでも十分ですが、
 皮肉の裏には、
 本編のように真剣なところがあると言うことだけ、
 気に留めて貰えると嬉しいです。