ほぼ月間webちょっ?

第5号:2001/11/28

目次
 @燻製人
 A空の神様

@燻製人(くんせいじん)

「あんた、臭い!!」
実家にいる頃、
私がキャンプから帰ると、玄関先で母はいつも不躾に人の臭いを嗅ぎ、
こう宣った。
「あんた臭いから、お風呂は最後で良いわね。」
酷い仕打ちである。(T_T)

自分でもクンクンと衣服の臭いを嗅いでみる。
「……確かに臭い。」
独特のスモーク臭が衣服というより地肌から漂ってくる。
一歩嗅ぎ違えると浮浪者っぽい臭いと言えなくもない。
道理で、電車内であからさまに避けられた訳だ。

長時間焚火に燻されていたが為に染みこんだスモーク臭、
香りの良い木を使えばそれなりの匂いなのだろうが、
我らが焚火の主流は渓流や山中での自家調達である。
山を藪漕ぎして駆り集めた雑木なのだから、
上等な匂いなどする訳がない。

油脂の強い木が混ざれば、肌は黒ずんでテカテカ光るし、
小枝や落ち葉が混ざれば、髪は灰で脱色されてゴワゴワになる。
みんな選別もせずに放り込むものだから、
小竹は爆ぜるし火柱もあがる。
火の粉で衣服に穴が空き、
火柱で前髪がチリチリ焦げる。
炭を熾(おこ)そうと竈を吹けば煤まみれになり、
知らずに足を置いた焼け石でスニーカーが溶ける。
さらに焚火の炎はじりじりと素肌を焼き、
顔もヒリヒリする程赤銅に焼ける。
(これを僕らは「焚火焼け」と呼んでいる)
そして燻されること数時間もすると、
みんなが同一色の、タキビストの顔になる。
それがまた、いい。

こうなると、
衣服の臭いなど、そう簡単には落ちなくなる。
帰りがけに温泉に寄って丹念に体を洗っても、
持ってきた着替えと取り替えても、
「臭うよね。」
「うん。臭う。」
でも、そこで嫌な顔はしない。
みんなどことなく嬉しそうに、
だけど照れくさそうに、笑う。

衣服の臭いは、頑固に残る。
何度洗濯したって、1ヶ月近くも残る。
臭い臭いと笑い合いつつ、
その微かな匂いを嗅ぐと、
「また行きたいな」
と、思う。

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A空の神様

 いつから人は、空を見なくなったんだろう。
 みんな地面ばかりに気を取られ、
 いそいそと気忙しく歩き去る。

 それでもみんな転んでばかり居て、
 膝に付いた土埃をはたくと、
 背中を丸めて「やれやれ」と呟く。

 あなたの心の中に、空の神様は居ますか?
 自分の嘘を見破る、誠実の神様。
 心の中のお天道様は強く照っていますか?
 精一杯生きる、信念の神様。
 心の中のお月様はちゃんと潤っていますか?
 分け隔て無く優しい、良心の神様。
 心の中のお星様は、ちゃんと輝いていますか?
 あなたの理想、自分の未来になるべき神様。

 曇ってませんか? 空の神様。
 弱ってませんか? お天道様。
 乾いてませんか? お月様。
 見失ってはいませんか? あなたの輝くお星様。

 汚れた都会の空気のように、
 苦しい心を抱えてませんか?
  
 空はあなたの心の中に、
 在るべき神を住まわせました。
 空を見たなら覗いてみよう、
 あなたの小さな
 空の神様。
 
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<note>
・勢いというのは恐ろしいもので、
 2つあわせて1時間足らずで書いてしまいました。
・燻製人は、実は1年以上前から暖めていた文章です。
 なかなか言葉にならず
 頭の抽斗(ひきだし)であれこれ整理しては仕舞い込んでいたもの。
 それがすんなり文章になったのは、
 冬物のコートを取り出したら、
 懐かしい焚火の薫りが染みついていたから。
 ちゃんとクリーニングに出したのになぁ。(爆)
 臭い臭いと言うけれど、
 実はみんな結構、好きな匂いなんだよね。
・空の神様は、
 うーん、定型詩にしたかったけどできなかった。
 後半部分だけ、ちょっとニュアンスだけ入れてみました。
 ほんとはこういうの苦手なんだけど、
 やってみたかった仕事の一つ。
・図体ばかり大人の癖に、
 心は駄々っ子の人達をよく見かけます。
 生きる指針、
 絶対的な価値観を失くした大人がなんと多いのか。
 自分の中にある信念、
 その理想に近づく努力、してない人って多いよね。
・願うだけが神様じゃない。
 自分を正して初めて叶いうる願い。
 それが私の、ちいさな宗教観。